OUR WORKS
事例
象印マホービン株式会社述べ14つの周年施策を展開。周年事業の企画立案のノウハウ紹介
象印マホービン株式会社は2018年に、創業100周年を迎えました。自らが100周年史の編纂を担当した際は他の企業の周年事業事例を熱心に調べ、現在は各地で周年事業の講演会を行い、多くの社史担当者の見本ともなっている樋川さん。実は、大人も水筒を持ち歩く、環境に優しいライフスタイルを提案する“マイボトル”の先駆者でもあります。周年事業を知り尽くした樋川さんに、象印の100周年記念事業はどのように取り組まれたのか、社史編纂に必要なスキルとは何か、そのノウハウや周年事業担当者のやりがいをお聞きしました。
コンセプトを決めることが、施策の土台となる。
100周年という大きな節目の年ですが、初期段階ではどのように準備を進めていったのでしょうか。
まずは、「周年イヤー」はいつを指すのか設定することからスタートしました。これを明確にしない限りは、会社側も何期の予算にすべきか決定することができません。周年イヤーの決め方としては3つあります。1918年5月10日が誕生日である当社の例で言うと、
- ①100歳の誕生日までの1年間(2017年5月11日~2018年5月10日)
- ②100歳の誕生日が含まれるカレンダーイヤー(2018年の1年)
- ③100歳の誕生日以降の1年間(2018年5月11日~翌5月10日)
です。当社では、対外的な分かりやすさも重視し、②を選択しました。
次に、「周年事業のコンセプト」についてトップに意思確認を行いました。周年をお祝い行事として位置づけるのか、あるいは新事業をスタートさせるためのきっかけにするのかなど、トップによってさまざまな考え方があります。当社の社長は、「感謝」と位置付けました。感謝の対象は社員、そしてお取引様です。ここで、「感謝を表す一年間」という100周年のコンセプトが決定しました。コンセプトは、周年事業を考えるための土台なので、早い時期に明確にしておくのが大事だと思います。
コンセプトの決定後は、何を決めていきましたか?
周年事業は、大きくアウター向け、インナー向けの2つに分けることができます。アウター向けとしては、新事業開始や、記念配当、メーカーであれば周年限定モデル商品販売などがあります。一方のインナー向けは、重要書類や映像記録などのアーカイブ、施設リニューアル、企業理念の刷新、浸透などが挙げられます。100周年を迎えた29社を調査したところ、100%社史を作っていることが判明しました。次に多いのが、社内外を対象にした式典で80%。このような他社さんが実施してきた事柄やインターネットで調査した内容を参考に、象印が100周年事業としてどんなことをすべきか、簡単な表を作成しました。 表では、横軸に施策を並べ、縦軸にまず時系列を過去・現在・未来で分類しました。そのほか横軸に、対象は、社員なのか取引先なのか、消費者なのかを分類。そして、何よりも大切なのが、「予算」です。結局、何をするのかどれだけ列挙しても、いくらかかるのか概算が分からなければ、会社としては判断のつけようがないんですね。経営会議にかけるためにも、制作会社等に見積もりを依頼し、業者がわからない場合は、ネットで複数社を検索。見積りだけになる場合もあることを了解を取りながら概算を提示してもらい、全体像を俯瞰できる資料をつくりました。これが4年前の2015年2月頃のことです。
4年前に準備をスタートするというのは、どのように決めましたか。
2013年、私は体調を崩し、駐在していた上海から帰任しました。その頃から「いずれ周年事業をやってもらうから」と言われていたんです。いろいろなセミナーに参加したり周年の参考書を読むなど、個人的に準備していました。4年前という設定は、あるセミナーで「社史は20年分に1年かかる」と聞いたためです。当社は70周年史が既に作成されているため、30年分書き足せばいいと考えると2年前で大丈夫ですが、同時にイベント等も担当していたので、社史で2年、イベントで2年ということで4年間の準備期間を設定しました。
時間は多いに越したことはありません。会社から指令があるまで待っていたら、時間が足りなくなる可能性もあります。会社で周年事業のことを一番知っているのは担当者である自分になるわけなので、どんどん自己主張していくべきだと思います。 私の場合も所属していた経営企画部がある既存のフロアーで部署名を新しく掲げるだけでよいのではという話もありました。事前に他社様から多数の資料を広げたり、社史の年表つくりでは巻物のようなものを作ることもあると聞いていましたので、直接担当役員へ直談判したところ、会社側に配慮していただき、個室の事務所を準備してもらえました。自己主張の大切さを実感した瞬間です。
象印が実際に取り組んだ100周年事業とは?
- ・社内WEB
- ・周年ロゴ開発
- ・100周年スペシャルサイト
- ・社内掲出ポスター(前期・中期・後期)
- ・記念論文募集
- ・全国五大紙広告
- ・CMサウンドロゴ変更
- ・まほうびん記念館リニューアル
- ・歴史映像「100年の歩み」
- ・新製品展示会100周年コーナー(映像と初代商品展示)
- ・周年記念品(社員・取引先)
- ・商品を購入された方に抽選で、スワロフスキー製のぞうさんマスコットをプレゼント
- ・創業100周年記念セレモニ(社員・取引先)
- ・100周年史(アウター向け正史、インナー向け抄本)
社員に興味を持ってもらえるようなしかけづくりを
周年事業の担当者として、押さえておくべきことは何ですか。
大切なのは、社内各部署の協力を得るためのしかけづくりと、担当者である自分のモチベーションをしっかりと高めることだと考えています。
各部署の協力なしには、社史は作れません。とはいえ、社員の皆さんは未来に向けての仕事をしているため、過去のことに興味はないですし、時間もないんですね。それは当たり前のことであって、全社員が周年に興味を持ってもらえるようしかけづくりをすることが重要なんです。当社では、周年記念ロゴの社員投票や周年ポスターの社内掲示、記念論文を募集する、特別な資料協力者には社史に名前を掲載することを条件に情報提供を依頼するなど、周年意識を高める施策を行いました。また、社内WEBを使って、毎週1人ずつ100名に「象印のここがええねん!」をバトンリレー式につなぐなどの企画や、毎月2回3年間に渡り「○○年前の今月」をコンテンツに、過去の出来事をアップ。工夫したのは、なるべく画像や動画を使用すること。社内メールなど、文字だけでは誰も読んでくれません。また、工場ラインなど社内WEBにつながる環境がないところでは、紙による回覧をするなどの配慮も行いました。
もう一つ非常に大切なのが、担当者である自分自身のモチベーションを高めることです。周年事業として必ずやるのは、記念式典と社史の編纂。記念式典は、花形で注目も浴びるんですが、社史の担当って実際かなり地味でなんですね。やりがいを持って働くということは、非常に重要だと思います。私は、過去の社史を2回ほど読みこんで、読んでいて分かりにくいところや、こういう写真があったほうがいい、これは間違っているのではないかなど、たくさん付箋を貼りました。又、過去の社史にはない新事実の発見は担当冥利につきます。最終的に100周年史が出来上がった際に、それらを改善することを目標に掲げていました。
実際に私が発見した事例をご紹介します。象印は1965年は宝塚動物園に仔象を寄贈しているんですね。それは70年史や90年史にも載っていましたが、その後のその仔象が今どこにいるのかは分かっていなかったんです。いろいろ調べてみたところ、今ソウルの動物園で53歳で元気に生きていることが分かりまして。象に会うためだけに、ソウルに出張に行かせてもらいました。結果的には非常にほっこりする映像が出来上がり、大好評でした。
社史にはDVDを添付し、社史の電子版のみならず、歴史映像やこのような取材映像、更には過去の式典映像など、社員の家族やOBにも喜んでもらえる映像作りもしました。また社史編纂のスキルアップとしてWEBサイトや図書館で調べたり、業界団体に入るなど積極的に外に出向くこともおすすめです。社史編纂は社内では基本的に孤独で、相談相手も少ないです。外に出て、見聞を広げることが大切だと思います。また、既存の仕事では決して出会えないような人脈をつくることができるのも魅力です。しかも社史や周年事業で知り合う方は、全く利害関係がありません。なんでも相談できる関係性を築くことができるのは大きいですね。
そのほかに、せっかく専門に特化した仕事をするので、文化産業資源などの扱いに関する資格であるデジタル・アーキビストや文章読解作成検定など、資格取得を目指すのもモチベーションにつながると思います。事実私も準デジタル・アーキビストを取得しました。4年間の業務の集大成として何か残すことも良いですね。
「ありがとう」「おめでとう」だけで終わらない、未来につながる周年に
樋川さんにとっての周年事業の意義とはなんですか。
まずは、周年を迎えるまでの先人たちの偉業を顧みて、感謝することだと思います。そして、次の周年に向け勢いをつける踏み台ではないでしょうか。周年をただ、「ありがとう」「おめでとう」だけで済ましてしまえば、お誕生会にすぎません。そうではなくて、未来へ志向していく。それが大切です。
また、周年は全社が一丸となるチャンスです。当社はグループ会社も含め国内外に約30拠点ありますが、同期でもバラバラになって、普段は揃うことなどありません。周年のパーティーなど集まる場があると、「久しぶりだな」「○○さん太ったね」など皆が楽しく談笑できるわけです。それだけでも「自分は象印にいるんだ」という帰属意識が高まります。
お客様へ向けた式典も、感謝の意を示すという点だけを考えて、記念品を渡すなどに終始してしまえば「ありがとう」で終わりです。そうではなく、「象印はまだ安心やな」「今後も楽しみやな」という期待感を与えるところまでやってこそ式典だと思います。
象印の100周年史はどんなもの?
社史は3分冊になっており、本編、資料編、DVD編に分かれています。実は、DVDにも工夫が。ページを開くと飛び出す絵本のようになっていて、これにライトを当てると、後ろに象の影絵が映ります。これは象印が最初に登録した商標でもあります。子どもたちも楽しめる社史になっているんですね。そのまま親子でDVDの歴史映像を楽しんでもらえるようにしました。
周年事業の経営投資としての効果はどれほどあるのでしょうか。
数字で表せないものと数字で表せるものに分けられますが、全社として、社員が1つになれるというのは経営基盤の強化につながると考えています。
「社員すら満足させられないのに、お客様を満足させられるわけがない」。 これは20年前にある人から聞いた言葉です。身内が満足していない商品をお客様が買ってくれるはずがありません。社員の満足度というのは、その先のお客様につながるものだと思います。
また、アウターの観点でも、式典にお客様を呼んだり、社史を発刊して配布するということによって、ブランド力のアップも図ることができます。今回全国都道府県に一冊は社史が置かれるように、図書館へ確認をした上で寄贈しました。
海外では「象印は100年を迎えます」と言うと、「すごい会社ですね」という話になって、それだけでも信頼関係につながります。今回の100周年では、海外の子会社にも周年ロゴを使ってもらったのですが、そこからビジネストークにつなげられたという話をお聞きしました。経営的な面に関しても、十分な効果があったと実感しています。ただし、周年ロゴマークを使用する場合はその商標権の確認や登録が必要となりますので、法務部や知的財産部門と調整をして慎重に進める必要があります。