社史・周年知恵袋

社史というと、「創業の背景」や「経営の意思決定」「年表や業績の記録」が中心になりがちです。
たしかに、それらは企業の骨格を伝えるうえで欠かせない要素です。
しかし、企業文化の“手触り”を伝え、社員の誇りを育てるために本当に必要なのは、現場の“当たり前”のなかにある価値ではないでしょうか。

社史を、過去の記録ではなく“文化資産”として活かすには、無名の社員の行動や日常に注目し、それを「語るに値する物語」として編集する視点が不可欠です。

「語るに値する仕事なんてない」と誰もが思っていた

社史制作の過程で、多くの企業の現場から聞こえてくるのが、こんな言葉です。

  • 「うちの部署には特別なエピソードなんてない」
  • 「ただ言われたことをやってるだけです」
  • 「経営の話はわかりません。自分には関係ないので」

一見控えめなこうした声のなかにこそ、企業文化を支えている“ふるまい”の核心が隠れています。

納期を守るために休日返上した話。

いつも当たり前のように行っている一手間。

誰にも言わずに引き継がれてきた口頭のルール。

こうした現場の実践は、会社の理念や行動指針よりもずっとリアルに“企業らしさ”を体現していることがあります。

社員の語りから“文化の言語”を編み出す

現場の当事者は、自分の仕事の価値を言葉にすることに慣れていません。だからこそ、編集者の視点が問われます。

インタビューで大切なのは、成果や功績を引き出すのではなく、「どんなことを大切にしてきたか」「その背景にある価値観は何か」を一緒に掘り起こしていくことです。

たとえば、以下のような問いが社員の記憶をひらきます

  • 「この仕事で、辞めたくなるほど大変だったのはいつでしたか?」
  • 「それでも続けた理由は、なんでしたか?」
  • 「新しい人に“これだけは覚えておいて”と言いたいことは?」
  • 「“うちの会社らしいな”と思った出来事はありますか?」

このように導かれた語りは、単なるエピソードではなく、企業文化の感情的な輪郭を浮かび上がらせます。

編集の工夫──“日常”を“伝承可能な価値”に変える

現場の語りを社史に落とし込む際には、いくつかの編集上の工夫が求められます。

● 背景との接続

現場の判断や行動を、経営の意図や理念とつなげて構成します。

「この一手間は、なぜこの会社で大切にされているのか」を見せることで、“行動に宿る価値”が伝わります。

● 翻訳と見立て

社員の実感を、読む人の文脈に沿って翻訳し直します。

たとえば、「ずっとやってきた仕事」を「長年継承されている職人技」と見立てるなど、当事者には見えていない誇りを浮かび上がらせる翻訳です。

● 多様な声の配置

役職・世代・職種・拠点を横断した構成にすることで、現場の価値観が“個人の美談”に留まらず、“文化の厚み”として伝わります。

こうした編集によって、社史は「誰かの功績を称えるもの」から、「みんなで共有する価値観の可視化」に変わります。

活用フェーズで“自分ごと化”を促す

現場の語りを盛り込んだ社史は、活用されてこそ意味を持ちます。

特に以下のような導線が有効です。

活用場面 内容 期待効果
新人研修 現場社員の声を含めたストーリーブック 組織の“肌感”を言語化し、早期共感形成
管理職研修 ベテラン社員の実践や判断の裏側 経験知の共有と文化の継承
社内報・イントラ連載 “らしさ”がにじむ日常の再編集記事 共通言語の形成とモチベーション向上
海外拠点への展開 翻訳+現地事例との照らし合わせ 文化理解と現地化の支援

「自分の語りが、会社の文化になる」という感覚は、社員にとって大きな誇りになります。

制作・展開のご相談について

日本ビジネスアート株式会社では、現場の語りを軸に企業文化を可視化する社史制作を数多く手がけてきました。

  • 多職種・多世代へのヒアリング設計とインタビュー実施
  • 理念と行動をつなぐ編集・構成
  • 紙・Web・動画など多様な展開フォーマット
  • 教育・広報・グローバル施策との接続

現場の“当たり前”には、会社を支える力があります。

それを丁寧にすくい取り、言葉にし、社内外に伝えていくことが、

社員の誇りを再発見し、文化を強くする第一歩になるのです。

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